…(壁から額を離して、双葉と共に食卓の方へ行きながら)欣二さん、……出征なさる前迄たしか高等学校に行ってらしったんでしょう? そこへ戻れないんですの?
双葉 ……戻れないことは無いでしょうけど、自分の方でそんな気は無いんでしょう。
圭子 おそろしいわ、近頃。不良だなんて、そんなもんじゃないの。……商売人のゴロツキや闇ブローカーなど――それも大概親分株の連中をおどかしちゃ――いいえ、それが金を捲き上げるためとは限らないの。ただ、変な事をしておどかすんだわね。……こないだも本所の方で、ダンスホールのマネジャを斬ったそうだし、……今日なんかも島田って――ゼゲンみたいな事をしている、とってもウルサイ奴よ、そいつを掴まえて病院のガレージの所で話をしているから、チラッと見たら、欣二さん、自分のナイフを自分のここんとこ(左の二の腕を指して)に逆手に突きさして、ニヤニヤ笑っているんだわ。
双葉 …………。
圭子 それを見て島田の方が真青になってブルブル顫えているの。……みんな、とても、おそろしがっている。柴田のフーテン――。
双葉 …………。
圭子 ……応召中、欣二さん、一体、どんな風な事していたの?
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