、中にゃ立派な人も居るでしようけど――そんな事してたんじゃ一家五人たちまち干乾し。それこそ、アラアの神さまよだわ。ふふ……ずいぶん失礼な生活だわよ。(上手扉の手前の壁のところに立停る)
双葉 …………。
圭子 欣二さんが先刻、病院で私に逢ったって言ってらしった――ただの病院じゃなくってよ、ケンサ。……
双葉 ふむ。……(薄暗い中でも見える位にパッと顔を赤くして、しかし無理に押し出すように言う)だけど、そんな必要が有って?
圭子 …………有るらしいわね、やっぱり。……それが、私達のくらしよ。なにもかにも、むしり取られて、その上――
双葉 …………。
圭子 ……私は近頃、信チンがうらやましくなる事がある。……(そのへんの床の上を見まわして)この辺じゃなかったかしら?
双葉 なあに?
圭子 八月十五日の晩に、信子さん寝ていたの――
双葉 うん、そこだったわ。
圭子 ……信チン、あなたは――(ボンヤリ言いかけて言葉を止め、立ったままその額を壁に押しつけてジッとなってしもう)……。
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(間)
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双葉 (ポツンと、圭子によりも自身に向って言うように)し
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