チた事があるんです。
柴田 なにが?
清水 五番教室に行く三階の階段です。うしろから見ていると、手すりにつかまって、先生、ヨロヨロして、五度も六度も休んでいらっしゃいます。――そいで、加藤が、いつか、どうかなすったんですかと、きいたんです。そしたら、今と同じように――
柴田 そうかね、私あおぼえていないが――なにしろ、脚気の気が有ってなあ。
清水 (相手の言葉は受けつけないで、寄り眼になったような視線を柴田の半白の前髪にヒタと附けたまま、しかし、静かな無表情な語調で)いつだか僕等の間で議論をしたことがあるんです。……早くなんとかしなくちゃと言う者もありました。……馬鹿だと言う者もありました。……そこへ斎藤先生が通りかかられて、ニヤニヤ笑われて、しかしあすこまで国策を守れる人は、えらいもんじゃないか、と言われました。……その時の、斎藤先生の笑い顔と眼つきを、自分は忘れる事が出来ないのです。
柴田 ――なんの事を、君あ、言ってるんだえ?
清水 ……(しばらくだまっていてから)今日は、自分は、クラスの代表として、クラスの全員の意志を持っておうかがいしたんです。
柴田 よくわからんなあ。ハッキ
前へ
次へ
全142ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング