な人よ、せい子さんて。ううん顔やなんかでないの。ここ。(と自分の胸を指す)大兄さん、寂しいのよ。ひもじいのよ心持が。そいで、せい子さんに、なにしたんだわ。せい子さんの、やさしい、そして弱い所が大兄さんを引きつけたのよ。
欣二 へっ! ヘヘ、笑わすなよ。お前に何がわかる!(もうかなり前に、それまで背後の窓を明るくしていた夕陽の光がスーッと消え、それから暫く、夕暮れの明りが差していたのが次第に薄暗くなって来ている)
柴田 (その薄暗い中で、欣二の顔をマジマジと見ていたのが、嘆息して)欣二……お前も、頼むから……もう、いいかげんにしてくれないか。
欣二 ……なんです?
柴田 そのお前の――
欣二 だって、そうじゃありませんか。兄さんだけじゃない、あんな女あ、今に、お父さんまで引っかけにかかりますよ。
柴田 なんと言うことを――
欣二 お父さんにゃ、わからねえんだ。おせいさんは、実は、叔父さんよりも兄さんよりも、お父さんに惚れているね。
柴田 ばかな事を言うもんじゃない。……私の言ってるのは、お前自身のことだ。なにが善くて、なにが悪いかという事は、お前には、わかっている。いいや、シラをきっても
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