来ないんだもの。
欣二 (それには答えないで)飯の仕度かね? 有るの、なにか?
双葉 ……有る。
欣二 ホント? ホントなら、(圭子をあごで指して)この人にも、なんか少し食べさしておくれよ。
双葉 (小さな声で)いいわ。……(つとめて明るく)ただし、なんにも御馳走は無くってよ。
圭子 あら、私なら、いいんですのよ。直ぐ失礼しますから。信チン――信子さんに、チョット拝ましていただこうと思って私、寄せて貰ったんですから――。
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(柴田がこのとき、ゲーゲーと言って、食べた物を吐いてしもう。ポケットから紙を出して口を拭く)
[#ここで字下げ終わり]
双葉 どうしたの?
柴田 うむ、どうも――なんだ、(もう一つゲェと言って、ツバを吐く)いや、なんでもない。チョットむかむかしたが、もう治った。
欣二 チェッ! しょうがねえなあ。
三平 飢えた胃袋にチーズは受付けまい。日本人の胃袋は、先ず、文明人の食いものとは縁が切れたね。
双葉 (圭子に)あの、チョット失礼して、仕度をしますわね。(鍋のふたを取って見てから、それを七輪からおろし、ヤカンに水を入れて火にかける)
三平 どれどれ
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