てくれないと、私、困っちもう。
柴田 たりないかね?
双葉 ううん、そう言うわけでもないけど――。(考え込もうとする自分を振りきるように、二三のフキンを棚から取り、バケツをさげて、上手扉の方へ)
柴田 水か? どれ、私が汲んで来よう。
双葉 お父さんはそこに居て下さい。
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(そこへ上手から、ぬれた手拭で額をおさえながら誠が入って来る。坐り机の方へ行く)
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双葉 ……どうしたの兄さん?
誠 ……うん。(机の前に坐って再び鉛筆をとりあげる)
双葉 お仕事?
誠 なに、又――
双葉 校正なら、私、やったげる。
誠 いいんだよ。今日はチョットだ。
双葉 でも、とにかく、あとでなすったら?
誠 うん。
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(双葉、兄の方を見ながら出て行く)
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柴田 ……(誠の後姿を見守りながら)あとでやったら、どうだ?……疲れている。
誠 ……いいんです。(父の方を見ないようにして鉛筆を動かす)
声 ただいまあ。
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(その声がしてからチョット間を置いて、次男の欣二が奥の出入口からノッソリ入って来る。上
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