にまわったり、しまいに病気で倒れて死んだんです。……僕はよく憶えています。それから信子です。あの若さで、信子が、なぜ死んだと思います? 負けいくさのためじゃありません。信子は、お父さんから、むやみに神秘的な民族主義をふき込まれ、神がかりの精神教育で育てられたために、せっかく医学をやっていたくせに物事を合理的に考える力も、ネバリ強く耐えて行く力もなくしてしまったんだ。だから日本が戦争に敗北したのを、即ち自分が敗北したように思ってしまった。信子は純粋な奴でしたよ。純粋なだけに、ほかの考えようがなかったんだ。……僕が高等学校時分からお父さんに背いて別の方へ歩き出したために、信子はお父さんにお父さんの信念をシャブらされて育ったんだ。つまりお父さんの信念の申し子だった。つまり、お父さんの信念が、信子を殺したんだ。……お母さん、それから信子……それから、こうして僕、双葉、欣二にしても――お父さんは、ホントは誰も愛しちゃいないんですよ。(立って、プイと上手の扉から出て行ってしまう)
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(間――柴田は誠の後姿を見送っていたが、やがて椅子にかけて、自分の前を見つめる)
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