渡来して来て社会生活をやって来たモンゴリヤ系の一群の人間達です。それでいて、僕等の尊厳や価値が一分一厘だって増減したりはしませんよ。大和民族を神聖化したり、皇室をタブーにしたりする必要も必然性もないんだ。待って下さい。……お父さんは、直ぐに民族と言います。しかし、それは全体、なんの事です? 誰を指しておっしゃるんです? いいえ、僕にとっては、民族は、今、現に、此処に手でつかめる姿で生きて働いているわれわれの社会の、これらの人間のことです。苦しい条件の中で生きようとあがいている人間のことです。……お父さんの民族は、どこに居ます? お父さんの国はどこに有るんです? そいつは、普遍妥当に存在しているんですか? つまり、実はどこにも存在してやしないんだ。強いて言えばお父さんの頭の中に存在しているだけなんですよ。
柴田 (立ちあがっている)違う。それは違うよ。
誠 お父さんは愛する愛すると言いながら、実は現実には誰も愛していないんだ。広い事を言う必要はない、現に、お母さんは殆んどお父さんのために犠牲になって――生活の苦しみを一手に引受け、僕等を育てるために自分一人で内職をしたり質屋に通ったり借金
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