ない部分こそ、学問の本質だ。つまり、勝者からも敗者からも同時に認め得る道理――公平冷静な、むつかしく言えば普遍妥当な、つまり、第三の価値。それが学問の中心だ。そりゃ自然科学だけであって、人文科学にはそんなものはないと言う者も世間には有るが、そんな事はない。現に――
誠 ふ、ふ、ふ……(黙々として聞いていたのが、その時、鉛筆をカラリと置いて低く笑う。柴田、言葉を切ってその方を見る)
三平 そりゃそうかも知れんけど、私ぁそんな事よりもだな、兄さんはもっと何とかして、食う物でも、もう少し食べる算段をしてからだな、そいから学問でもなんでもすると、ねえ誠君――
誠 まあ、いいですよ。ふふ、お父さんは、さっきから僕に言ってるんだ。
三平 なに? なにを?
誠 こないだの議論の続きを、お父さんは僕にふっかけているんだ。
三平 しかし、君……(柴田の方を見る)
柴田 なんだ?……(誠を見ている)
誠 ……(チョットだまっていてから)直ぐにお父さんは、普遍妥当の、第三の価値のと言いますけど……そんな物を持って来て、どんな事を立証しようと言うんです? 大和民族と言うのは、本質的に、そして根本的に、この島に
前へ
次へ
全142ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング