、兄さんは、これからは今迄と違って、学問の研究を、外部からの力がひん曲げたりする事がなくなったと言うが、私はそんな事はないと思うね。
柴田 そりゃ、細かい事を言えば、そうかも知れんがねえ、しかしいずれにしろ、外部からの力に依ってひん曲げられる事に対して抵抗してだな、ホントの物の真実を守って行くのが、先ず学究の任務じゃから、少しでもその種の外力が減ったと言うのはよろこばしい事で――
三平 違うなあ、私らの考えは。学問などと言うものは、いつまでもその時その時の力に依って動かされて行くもんで、学者と言うものは、その時々の権力でどうにでもなるもの――つまり、学者は一人残らず曲学阿世の徒でさあ。おっと、これは学者の悪口を言っているんじゃありませんよ。悪口でもなけりゃ、褒めているんでもない。学者にしたって此の世に生きている人間ですからな、此の世を支配している力に動かされるのは当然だし、それがあたり前だって言っているんです。
柴田 (苦笑する。しかしすぐまじめになって)……いや、そんな事はないよ。なるほど学問には、その時々の外力で動かされる部分も有るには有る。しかし動かない部分も有る。実は、その動か
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