来ながら、いよいよ闇屋になる決心をつけた。なあに、その気になりさえすりゃ、なんでもない。なんでも肌着を全部二重にして、それをちょうど防弾チョッキみたいに一面に小さい袋になるように縫っといて、それに全部買った米を入れて胴中から足の先まで巻きつけて来るのがあるそうだ。そうすれば一斗五升位は持って来れる。そうして一年三百六十五日汽車に乗ってあちこちしていれば、暮しが立つと言う。こんならくな稼業は無い。第一、そうなると、殆んど汽車の中が宿屋で暮せるんだから、此処の室にこうして厄介にならずに済むからね、ははは。
柴田 ……そりゃまあ、なんだが……此処にはいつまで居てくれても、私らはかまわんが――
三平 しかし、兄さんの方だって、三瓶の方から立退きを迫られているんでしょうが?
柴田 ……そりゃまあ、あけてくれと言っちゃ来ている。しかし三瓶さんの方じゃ、とにかくまあ、疎開先で腰を落着けて居られるんだから――それに此処だって、使えるのはまあ此の室だけで、どうせ三瓶で取戻して見てもチャンと住まえるわけはなし、それを話して当分、まあ、居さして貰うとして。――それよりも、その、君が、闇屋になると言うのは……
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