りのセンチメンタリズム! 私はそれを思うと――
誠 信子の事は、よしましよう。(ズックのカバンから印刷された紙のたばを取り出して机の上に開く)
三平 そら、そら、君にしたって、すぐそれだ。なぜ、よす必要があるね? あくまでその原因と動機を追究して、そんな風なセンチメンタリズムの愚劣さかげんをハッキリと認識してだな、われわれが今後もうそんな馬鹿なことを繰返さないようにする事こそ、信ちゃんの死を最もよく弔うゆえんになるじゃないか。そら又、そんな顔をする。君だってマルキストだろう? そうだろう? そんなオツに悲しそうな顔がマルキストの顔かね?(誠、無言で苦笑する)笑ってるね? 笑いたまえ! 私あ、あちらでもマルキストをたくさん知っていた。立派な奴もくだらん奴も居たがね、とにかく日本の近頃のマルキストのように東洋豪傑風にセンチメンタルな、それでいて自分に対して不正直なマルキストは一人も居なかったねえ。これも日本の特殊性かね? まるでどうも、アジャンタ洞窟の石仏だ。東方の微笑と言うやつ!
誠 ……喋るなあ。
三平 うん?……(キョトンとして)うむ、はは。(顔を平手でゴシゴシこする)いや、ちかごろ
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