風の習慣も、一種の罪悪だね。人間、他人に対して正直である前に自分自身に対して正直である必要がある。日本人も、そこいらから始めるんだなあ、うむ。
誠 違うんだ。
三平 う? なんだ?
誠 (ユックリ起きあがって)僕の言うのは、そんな事じゃありません。
三平 だって、そうじゃないか。ぜんたい、君たち、柴田一家には、みんな同じような悪習慣があるね。自分の考えたり感じたりしていることの、一番かんじんな事はすこしも表に現わさない。はなはだしい場合は、腹の中で泣いていながら顔では笑っていたりする。早い話が、死んだ信子だ。死ぬ位だから、よっぽど悲しかったのだろうが、なら、なぜ正直に泣いたりわめいたりだな、つまり、その通りにふるまった上で生きて行かない? それを、涙ひとつこぼさず、遺言ひとつ残さないで、アディユ! ふん! きれいだったそうじゃないか――しかも年は若いし、医学校は卒業している。オウ! ツウ・エンド・ツエンティー! もったいない! ――そいつが、だまって、アディユ! 生命に対する冒涜だよ。死ぬほどの気持なら、生きて行けぬ事はない。これを要するに命さえ捨てれば能事終れりとする、愚劣な、神がか
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