していちゃ駄目だな。そもそも、この――
誠 叔父さん、双葉は買出しに行って、今日もあぶれちまったらしいですよ。
三平 あぶれ?
誠 ――なんにも買えなかったらしいんです。
三平 ……ホントに田舎にもそんなに無いのかね? そりゃどうも考えられんね、闇市はもちろん、さかり場へ行きゃ、なんでも売っている。
誠 ――無いんでしよう。もっとも、物が無いのか、金が無いのか、わからんが。
三平 ふむ。それで、しかし――
誠 非常に弱っています。双葉がノンキそうな事を言う時は、参っちゃってる時です。そんな奴なんです。
三平 うむ、……いや、君達のお母さんも、そうだった。母親に似たんだね。私は、自分の妹ながら、感心したことがある。よくできた女だった。うむ。もっとも、そのために苦労が内にこもってしまって――つまり内攻して、若死にしてしまった。そう言っちゃなんだが、君達の親父なんて言うもなあ、学者だかなんだか知らんが、人が善いばかりで周囲の人間をどんなに犠牲にしているかわからんのだからねえ。つまり善意に依って人を殺すというやつだ。それを考えると、なんだ、心の中が苦しい時に顔はニコニコしていると言った式の東洋
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