掛にかける。そしてジッと動かなくなる……間……)
(上手の扉から、長男の誠が入って来る。みすぼらしい背広にハンチングにズックの手さげカバン。ひどく憔悴している。冷静な、時に過度におさえつけたような傍観的態度。ものを言い出すときに時々乾いて前歯にへばり附いた唇をひっぺがすのが、痙攣するような、場合によって相手を嘲笑しているような表情を与える。――扉の外でぬいだ破れ靴を扉の傍に置いて、室内を見まわした眼が自然に清水にとまり、しばらく見ているが、清水はこちらに気が附かぬ。誠は別に言葉をかけようとするでもなく、ユックリと室内を見まわした末に、上手前寄りの坐る式の机の所へ来て、ズックのカバンを机の上にバタリと置く)
[#ここで字下げ終わり]
清水 ……(その音で、ちょっとの間、ボンヤリと誠を見ていてから、われに返って)やあ……。
誠 いらっしゃい。――みんな、どうしたんでしょう?
清水 ……ええ、ちょっと、その、待たせて貰っているんで――(腰をあげる)
誠 いいんです。……(疲れきった様子で坐りながら)どうぞ、ごゆっくり。――失礼。(机の前に敷いてあるきたない座ぶとんを四つに折って、それを枕に
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