、お乳があがっちゃっているんです。
柴田 ……相済まぬ。明日にでも必らずなんとかするから――
お光 だめ。手ぶらじゃ、私、帰れないんですから。
柴田 そんなことを言われても――
お光 待たしてもらいます。どうせ、あなた、帰ったからって、食う物ひとかけら有るわけじゃなし、腹のへるぶんにゃどこに居たって同じなんですからね、ヘヘ。
柴田 ……困ったなあ、どうも――。
せい (上手の扉を開けて現われる。お光を尻目にかけて)先生、あの、小さいシャベル、ごぞんじない?
柴田 シャベルなら、この下に、まだ置きっぱなしだが。なにをやるんだね?
せい いえ、ちょっと、カボチャの根に堆肥をやるんですの。
柴田 そりゃ、明日にでもしたら――そうさな、ちょっと待ってくれ。(救われたように床の切穴の所に行き、ふちに手をかけて、足をおろす)
せい いいんですか?
柴田 なあに――(床下に姿を消す)
お光 カボチャですか?(せい子返事をしない)ふふ。(返事をされないのにも別に気を悪くした様子もなく、その辺を見まわしていた眼が食卓の端にのっているジャガイモの包に行く。スッとその方へにじり寄って、包の端を開いて覗く)
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