ィ父つぁんに、おかげで、やっと自分の家に住めるようになりましたって、涙を流してお礼をおっしゃったんですからね。そりゃお人がらな、なんですよ、ふん!
せい ええ、私は、なんです、戦災に逢って、こちらに御厄介になっている者で――
柴田 この人は、まあ、遠縁にあたる人で、……なんだ、まあ、こうして家事をやってくれている――
お光 そいじゃ口出しをしないでいて下さいよ。ヘ、なによ言ってやがんだい!
柴田 ――ホントに、実に相済まんが、一両日中には本を売払って、いくらかでも持参するようにするから、今日のところは、ひとつ、お光さん――(くやしそうにお光を睨んで立っていたせい子が、プイと上手の扉から外へ出て行く)
お光 駄目ですよ先生。私等だって、もうあなた人さまに同情なんかしちゃ居れないんです。昨日っから、昨日の朝っから、親子六人が、身になるものは何一つ喰っちゃ居ません。この子が、あなた(と背中の幼児を邪慳にゆり動かして寝顔を肩ごしに覗き込む。幼児はそうされても眼をさまさぬ)こうしているのを、ただ眠っていると思うんですか? はいるものが入ってないから、弱っちまって、こうなんでさあ。四五日前から、私
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