w先で涙を拭く。自分だけでは真率に同情しているのである)
柴田 いや、その――(弱まり痛んでいる皮膚の上をササラでひっかきまわすような相手の粗雑さが、全く悪意に発したものでないことがわかるだけに、腹を立てるわけにもゆかず、殆んど拷問にかけられながら)……ええと、金の事だろう? 建築費の月賦で、まだ残っていた、あの話じゃないかね?
お光 はあ?(キョトンとしている)
柴田 早くなんとかせにゃならんとズーッと、この、考えているが、私も、ここんとこ、少しなまけていてな……しかたがないので、本でも売払って、あんたん所には入れるつもりで、もうチャンと話はしてあるんで、二三日すれば、私の方から持ってあがるから――そう言って、ひとつ。
お光 困りますねえ。……お父つぁんが、とてもやかましく言うんですけどねえ。
柴田 すまんが、もう少し待ってくれと、そう申しといてくださらんか。
お光 そんでも、内でも、どうにもしょうがなくなって。買い出しに行こうにも、ジャガイモが一貫目五十円からなんですもん。メシのたんびに、あなた喧嘩がはじまるんですよ。二三日前もあなた、人のを食っちまったとか何とかで、あの穴ん中でお
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