ヲえ、あの、双葉さんは、チョット、あの、用たしに――
お光 そう? あの、信子さんの一周忌も、たしか、もう直ぐですわね?
せい はあ、いえ――
お光 だけど、いくらなんでも、黙あって、あなた、書き置き一つ無くって毒を呑むなんて、そんなあなた、いくら日本が負けちまって、そりゃあの当時は、いよいよ占領軍が上陸してくれば、女子供など何をされるかわからないなんて、根も葉もない噂さをふりまいた馬鹿も有りましたけどさ、いくら悲観したからって、信子さんみたいな、立派な女医さんが、そんな簡単に自殺なんか出来ませんわよねえ。キットなんですよ、好き合った相手の人が、戦死でもなすったと言うような事なんですよ。ほほほ、キットそうですって、私にゃ、わかりますよ。私だって主人の事考えると、死んじまいたくなる事がありますもん。
柴田 ……いや、もう、お光つぁん、信の事は、まあまあ、言って見てもしょうがないから。
お光 テッキリそうですわよ。その出征している好きな人が、キット特攻隊かなんかで突込んでしまったんですよ。だもんで信子さん、カーッとしちゃって毒を呑んじまったんですよ。全くねえ、私にゃ、ようくわかりますわ。(
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