「ますの。なんしろあなた、十八や九の弟一人の働きで、お父つぁんとおっ母さんと私と、この子ともう一人の上の子の六人口をまかなっているんでしょ? いっそ私なぞ、こんな子さえ無けりゃ、どんなひどい商売でもやっちまおうと思うんですけど、ふふふ、いえ、なに、いよいよとなりゃ子供が有ったって、かまやしませんけどさ、ヘヘヘ。
せい でも弟さんは、えらいわねえ。
お光 だめですよ。近頃電車やなんかも騒いでばかりいて、いつなんどき首にならないとも限りませんからねえ。そう言えば、こちらの誠さんの新聞社でもストライキがはじまるんですって?
柴田 そうかねえ……誠は別に――
お光 共産党なんでしょ? たしか柴田さんの誠さんだったって、いつか、なんたら言うデモの時に、日比谷へんで見かけたって秀三が言っていましたわよ。
柴田 ……ふむ。……(ペラペラと取りとめなく喋りかけられて返事が出来ない)
清水 先生、それでは、僕、これで――
柴田 う? うむ。……まあ、チョット待ってくれ。ええと――(清水は、再び腰をおろす)
お光 双葉さんは、いらっしゃいませんの?
せい (何を言い出すかわからない相手にハラハラしながら)
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