@あらまあ、大工さんとこの……お光さん――
お光 こんにちは、ヘヘ。
柴田 やあ、おいで。
せい いやじゃありませんか、表口からおはいりんなりゃいいのに。
お光 だって、外はグルッと焼けてしまって、どこが表だか裏だか――(ニコニコしている)
柴田 ごぶさたしていて……すまんと思っているが、棟梁はお元気かな?
お光 ヘヘ、お父つぁんは毎日寝ていますの。壕舎は、しけましてねえ、又ひどくリューマチが出まして。あれやこれやでグチばっかり。大工の棟梁が自分の住む家も建てられねえで、こうしていつまでもモグラもちみたいに穴ん中に住んでいりゃ世話あねえだって。
せい そいで、あなたの御主人は、まだ、あの、復員になりませんの?
お光 はあ、もう、とにかく、主人の行っている方面からは、無事な兵隊だけは帰って来るのは済んだって言いますもん。死んじまったんでしょ。(ケロリとしている)
せい ……(此方で胸がつぶれて)まあねえ。(清水が無言で椅子を立ってお光にすすめ、自分は壁に近い所にある背の無い腰かけの方へ行く。お光はペコンとおじぎをして椅子にかける)
柴田 ……すると秀三君は?
お光 弟は電車の方につとめて
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