Vチリンで燃しつけた火がけむって、その辺に煙が流れる。その煙のためにしぶくなった眼へ指を持って行ったりしながら語る)
清水 しかし――しかし先生は、戦争中、僕等を戦争にかり立てるような事は、一言もおっしゃらなかったじゃありませんか。むしろ僕等は、講義中に時々先生のおっしゃる事から柴田先生は戦争反対論者じゃないかなんて話し合ったことがあります。現に、先生が、配属教官から何度も忠告を喰わされた事があるのは、僕等も知っています。特高の刑事なども、始終お宅にやって来ては、先生をいじめ抜いたそうじゃありませんか。
柴田 はは、そりゃ、かなり、やられた。言う通りにしないと縛るぞと言ってね。しかし、そんな事位、別に珍らしい事じゃなかろう。たいがいの人がもっとひどい目に逢っていたんだからね。上も下もあの時分は、頭がカーッとして眼が見えなくなっていたんだね。――私の言っているのは、そんな事じゃないさ。なるほど私は、戦争中だからと言うので、自分の講義のやり方を曲げたりはしなかった。その点はハッキリ言える。しかし、私は愛国者だ。日本を愛している。……だから、とにかく、戦争に負けたら、たいへんだと思った。負け
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