ウせたくなかった。……指導者達の、とんでもなくまちがった考えのために、悪い戦争が始まってしまった事は知っていた――たしか、教室でもハッキリその事は君達に言った事があるね? (清水ガクンとうなずく)――が、とにかく、始まってしまった戦争に負けたくなかった事は事実だ。そういう自分の気持が、ところで、私の講義の内容をだな――内容の一つ一つではなくてもその全体の基調や気分をだな、無意識のうちに戦争協力の方へ持って行った。少くとも、それが無かったと言い切ることは私には出来ない。それに気が附いた。
清水 ……私には、もう君達に対して講義は出来ない――あの時、先生はそうおっしゃってお泣きんなりました。
柴田 いやあ、涙が出たのは……ありゃ君、これきりで君達とも別れるかと思って、それがつらいんで、ちょっとその、はは、センチメンタルになったのさ。
清水 しかし――しかし、いずれにしろ、うちの学校で戦争協力について責任のあった先生達は、ちゃんともう三四人追放令に引っかかって、よされたんです。もし先生までがそんな風にお考えになるんでしたら、続けて教職についている資格のある先生は一人も居なくなります。現に、先
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