と確に、少しばかりは腹が据った。そして、「おれと言う男は、銃を持たされても鍬を持たされても槌を持たされても、その他どんな仕事を当てがわれても、その事に就てなんにも知らず、その力を持たず、物の役には立ちそうも無い。ただ僅かに文学芸術の中の演劇と戯曲に就てならば、ホンの少しだが知っているし、ホンの少しばかりなら役に立つようになれるかも知れぬ。だから、それをやる。それをやって行く事が許される時まで、それをやる」と考えるようになって来ている。
 その事に関連して、国家や社会のことを言うことは敢えてしまい。それは第一に自分の任で無い。第二に、国士的発言者の論と説は今天下に充満していて、自分などの蛇足を必要としないからである。ただ、自分のみでひそかに信ずる所ならば、僅かながら持っているし、しかも、こうして自分の状態は未だ「飢ゆる」と言うことからは遠い。これを思えば「つらい」などと言う感想は、どこかへ吹き飛んで行き、楽しくなる。誇張では無い。僕はボロをさげ少し食い、片隅で、自分の好む仕事をやらせて貰い、うまく行けばその仕事で以て少しばかりお役に立つことが出来るかも知れない自分の運命に満足し、よろこび
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