築地その他の新劇団には薬にしたくも無かったのである。有るものはただ、或る時は芸術的意図だけを文学青年的、芸術至上主義的、感傷主義的に抱きしめて他を顧みず又別の時は経営的必要だけを商人的、ユダヤ人的、サラリーマン根性的に抱きしめて他を顧みぬと言うテンヤワンヤだけであった。そして、経営的必要のために芸術的意図のホンの少しばかりが差し引かれると、「俺達の芸術運動の針路は曲ってしまった。濁ってしまった」とわめき立てるか(丁度君がしているように)又は芸術的意図のために経営的な困難が少し起きると「これでは食えんから、もう駄目だ」と泣きベソを掻く(丁度君がしているように!)と言う、殆んどヒステリー患者に類する狂躁状態だけが君達を支配したのである。この狂躁状態は君の裡に今尚続いている。そしてそれが君に、此の章の冒頭に引用したような言葉を吐かせ、虚妄の上に虚妄を築かせているのだ。僕が「この言葉はそれ自体としても奇怪に響く」と言ったのは、その事だ。
 次に「特にそれを君が言うと尚更奇怪である」と言うのを説明しよう。
 説明する必要から、百歩を譲る。で、仮りに君の言う「新築地では食えなかった。食えないものを
前へ 次へ
全66ページ中36ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング