チキと言う。
 君は、その様な意味で怯懦であり、その様な意味でインチキであるのだ。そして君以外の苦楽座同人諸氏、それから新劇くずれ俳優の中の或る者達、それから今の世に時めいているスタア格の俳優達の殆んどすべてが、そうである。今、われわれが一丸となって戦い抜かなければならぬ未曾有の国運の中にあって、自分の坐り込んでしまった「特等席」を離れることは「良心」の名でも「高いものの」名でも「国」の名でも、いやでござると言い放っている事を意味している。殆んどそれは獅子身中の毒虫の行為だ。
 なるほど、新劇――芸術的に良心的な、その手段に於て高い演劇――の観客は、現在のところ、他の演劇の観客に較べて、非常にすくない事を僕も認める。しかし、その劇団の経営・製作・持続などがよろしきを得るならば、――と言う意味は、理想的にうまく行けばと言うのでは無くて――専門劇団として普通の平均水準まで行けばである――今わが国に専門的新劇団の三つや四つを常置存続させて行くに足る程の数の観客は存在していることを、僕は断言する。せよとあらば、その計数の概略をも示すことが出来る。
 勿論、その様な劇団には、現在映画会社その他が
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