又、偉大なる先人や将兵諸氏の事を言う事が懼れ多いとならば、言わずともよろしい。現在の国民大衆がそれぞれの業務にセッセとたずさわりながら、どれ程の労苦をしのいでいるか、そして、どの程度の生活をしているかを見てみるがよい。
 そして、演劇人と雖も国民大衆の一人々々である。一般の国民大衆の平均生活以上の生活をしてもよい資格は無いのだ。同時に、一般の国民大衆と同程度の生活(大体六十円から百円迄位の生活)をしようとさえ思えば、どの様な演劇人でも、コツコツと演劇の仕事にはげんでさえ居れば、それがどの様に「高い」演劇であろうと、どの様に「低い」演劇であろうと、チャンと暮して行けるのだ。現に暮して行けているのだ。
 三百円も千円もの収入を得て贅沢に馴れスタア意識に毒されてしまった阿呆共が、自分で自分の「伝説」に縛られてしまい、「良い仕事のためにならば千円の月収が百円になってもよい」とは思わないで口先きだけは「良い仕事」をやると称しながら、千円の月収にかじり附いている――これを、これこそ怯懦と言う。千円の月収のある者が百円の月収のある者を見て「とてもそれでは食えない」とデマる――これを、こそこそイン
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