ら」と放言しているのである。
君達をその様にさせている不安や恐怖や危懼の心理は、僕にもわからぬことはない。
しかし君達のその様な態度は、丁度ヌクヌクと安楽椅子にふんぞり返って居られる金持が、道楽に魚釣りに出かけて、「魚が一匹も釣れないでは、俺は食えなくなる」と心配しているようなものだ。また、ダンケルクから敗退したイギリス軍が、英本土まで逃げればよいものを、恐怖のあまりカナダの方まで逃げ去ってしまったあげく、カナダの安全さに馴れてしまって、「英本土に戻りたいが、戻るとドイツ軍に殺される」と心配するのに似ている。しかし、まだそれだけならよい。許すべからざるは、その様な心配を言葉に出して呼号する事に依って、現に魚を釣って生計を立てている本職の漁夫、又はこれから本職になろうとしている漁夫の子達を全く有害な不安に陥れたり、全軍の将兵に全くいわれの無い恐怖を与えて戦意を失わせてやろうとしている点だ。つまり、真剣に「高き」演劇に挺身し、又挺身しようとしている良き演劇人達を嘘偽の――少くとも真偽不明の言説を以て萎縮させようとしている事だ。しかも、それを「良心」や「純粋」や「国」の名に於てしている事
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