日本がこれを餓えさせることがあるものか。又事実、餓えた者はいないのだ。
「いや、それでも餓える恐れがある」と言うならば、それを強いて事実を曲げようと意図する者か、又は殆んど故意にわが国を誣いようとする[#「誣いようとする」は底本では「誣ひようとする」]徒に近い。でなければ、「今日本が必要としている演劇」と言うのが真赤な嘘であって、実はその様なもっともらしく神聖な言葉の隠れ蓑の中で、私利と私慾を計ろうとする徒輩か、一般的・自由主義的・国際主義的「良心」――即ちいつなんどきでも「敵性」となり得るしろものを国民の間にばら撒こうとする徒輩であろう。
 僕は一時の昂奮にかられ、のぼせ上って、この様な事を放言しているのでは無い。ごらん、僕を。曾て、自分だけでは真面目なつもりでも客観的には全く量見ちがいをして一時左翼的思想に頭を突っ込みそして、その誤りに気附くやサッサと其処から抜け出して来たばかりでなく、その後と雖も物を書く筆を折りもしない無節操漢であり、しかも一年にせいぜい二三篇の戯曲を書き得るに過ぎない程に遅鈍にして病弱なる怠け者である此の僕でさえも、普通の意味でコツコツと戯曲を書いてさえ居れば
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