で百姓兼カツギ屋になつているのです。笑いたくなりました。しかしミジメな氣持はまるでしません。ただあの女の事だけは、まだサッパリしません。上京のたびに方々搜しまわり、リストの中の東京と東京近くの人たちは一つ殘らず當つて見ましたが、それらしい人にもぶつかりませんでした。立川景子さんの所へはその間にも二三度行つて見ましたが、手がかり無し。仙臺と、靜岡と、それから福岡へも一度行つて見ましたが、皆ちがいます。やつぱり、はじめから無理な搜し物だつたのだ。もう諦らめよう。……そう思うようになり、でも既に以前のようにイライラはしなくなつた。それでいいんだと思い、忘れかけていたのです。
 そこへ、ヒョッコリ、綿貫ルリが現われました。久子さんの山畑には、麥が生えている頃から、そのウネの間にイモが植えつけてあつて、麥のトリイレをすませると、畑はたちまちイモ畑に早變りするのですが、傾斜の強い山畑なので乾燥がひどいため、時々下からオケで汲みあげて水をやらなくてはなりません。ちようどそれを僕はやつていました。肩にかついだオケから、水をムダにしないように、一株一株の根元へ順々に注ぎながら無心に歩いていると、下の方から登つて來た路の、畑の角の所に人聲がするので、ヒョイと見ると、胸から上だけの女が二人立つて僕の方を見ている。何か言つているのは久子さんで、並んで立つているのが、――はじめチョット誰だかわからなかつたが、ルリでした。白いカンタンなワンピースを着て、こちらを睨みつけるように見ています。後で聞くと、いきなり訪ねて來たのを、僕が今畑に出ていると言うので、ちようど家にいた久子さんが案内して來たのだそうですが、なにしろ、あまり出しぬけなので、僕はアッケにとられました。僕はポカンと口を開けていたかも知れません。……久子さんがゲラゲラ笑い出しました。すると釣られてルリも笑い出しました。この方は、青い顏色のままの、引きつるような笑い方でした。
 フト氣がつくと、僕のかついだオケから水が、ダアダア流れつぱなしになつていました。

        41[#「41」は縦中横]

 ルリは以前よりも又美しくなつていました。
 會わないでいた半年ばかりの間に、全體に痩せてしまい、顏など、ほとんどヤツレたと言える位になつているのですが、それでいて、女として完全になつた――變な言い方ですけれど、そんなふうに美しくなつているのです。身體つきなども、以前の子供くさい所が無くなり、落ちるだけのゼイ肉がきれいに落ちてしまつたかわりに、胸や腰などはガッシリと豐かになつた。人がらも以前よりも、すこし沈んだような感じになつている。……しかし僕にはやつぱりルリは、ギラギラしすぎて、眼を開いて正面から見ておれない。やつぱり、何か壓迫されるような氣がして、自分からはなんにも話しかけられない。
 ルリも、口ではほとんど何も言わぬ。ただ、そのまま、すまして久子さんの家に腰をすえてしまつたのには、困つた。二日たつても三日たつても、立ち去らぬ。このまま住みついてしまいそうに、落ちついている。それを又、おどろいた事に、久子さんが平氣で居させる事だ。ルリは久子さんに自分の事をくわしく話したらしいが、どんな事を言つたのか、僕にはサッパリわからない。從つて久子さんが僕とルリの關係を何だと思つているのかハッキリした事はわからない。
 第一、ルリがどうして僕が此處に居ることを知つたのか、その時は見當がつかなかつた。後になつてわかつて見れば、なんでも無い事だつたのだが、何かおびやかされたような氣がした。――ルリは僕のありかを「春子の家」の春子さんに聞いて來たのだ。それは野口と言う男――あなたも御存じだと言う、中年の寫眞師で、裸體寫眞を撮影するのを商賣にしていて、ルリが一時そのモデルになつた事のある男――あれが、たいへん酒好きで、僕などが行くズッと前からの「春子の家」の常連の一人だつたのです。酒に醉うと、ふところから自分の寫した裸體寫眞を取り出して、店の女給や客の醉つぱらい達を相手にひどいワイ談をして聞かせるのが癖で、果ては、相客にその寫眞を賣りつけたり、時によつて、變な所へ案内したりもするらしい。實は、僕が「春子の家」に行くようになつてから、僕自身も、この野口に五度も六度も會つて、ワイ談を聞かされていたんです。もちろん、これがルリを使つて裸體寫眞を撮つている男だなど、僕は知ろう道理がありません。野口の方も、ルリと僕との間の事など知りはしません。ただ、いつだつたか、野口から、一枚の裸體寫眞を見さされて、僕は妙な氣持になつた事があります。女が一人、向う向きになつて、兩脚をひろげ手を上にあげて妙なカッコウをした全裸の寫眞で、まあ、そんな寫眞としては割に趣味の良い寫眞と言うだけで、別に變つたところは無いのですが、見ている内に、
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