凄い顏をしている。身なりから眼の配り方などが普通では無い。私の家を遠まきにして警戒しているらしい。
私はしばらくそれを見ていてから上にあがつて書齋に歸り、默つて國友の前に坐つた。國友は壁の佛畫を見ながら煙草をふかしている。
「國友さん。………おもしろくない」
「え?」
「そこの角に立つている二人の人ねえ………」
「…………」彼は私の顏をちらつと見るや詫びるような笑顏をして見せた。このような男の神經のす速さ。「いや、すみません。そういうつもりじやあ無いんです。氣を惡くなさらないで」
「君は僕の古くからの知り合いだ。貴島のありかを僕が知つていれば、ありのままに君に言いますよ。まして、この家に貴島君が居るんだつたら、あんたに隱したりなんぞしやしない。そんな事をする理由が僕にないもの」
「………私が惡かつた。いや實はね、あの若いもんはお宅を見張つているというよりやあ、この私を監視しているんですよ。詳しく話さなけりやわからないんですが――、然しこんな事をあなたの耳に入れても仕方がないんだ。とにかく貴島君にあまり大きなケガをさせないようにと私は思つているもんだから、そういう私の量見をウチの若いものが察していましてね、そうさせまいと思つて私を監視しに附いて來るんですよ。あなたがたにやあ何の事だかわからんだろうし、つまらんことですが。そういうつまらん世界から私など、何時までたつても足が洗えないという事だなあ。ハハハ。とにかく、ちよつと追い歸して來ましよう」
國友は座を立つて外へ出たが、すぐに戻つて來た。二人の男は歸つたらしい。
「そこで三好さん、貴島君の口から私どもの組と黒田組との間の事についてあなたがどの程度にお聞きになつたか私は知りませんが――」
「僕は何も聞いていないんだ」
「結構です。お聞きにならん方がいい。私達のシャバの事なぞ下らんです。然しとにかく、どうでしよう貴島に會わせてくれませんか? そうでないとあの男は今にえらい目に逢います。いや實は私個人としてもあの男とはカタをつけなきやならない話があるんですが、それはあの男と私とのあいだずくの話で、これはまあ、その中に處置をつけます。今言つているのは、組の奴等がいきり立つていて、うつちやつておくと、とんだ目に貴島君が逢うんです。それを言うんだ私は」
「………わかつた。國友君、それでは僕もまじめに言おう。そのつもりで聞いて下さい。………僕は現在貴島が何處に居るかほんとに知らない。横濱界隈の小さな船着場だという事は知つているが、それ以上の事は知らないんだ。さつきも言つた通り君に嘘をついて見ても仕方がない。だけどかりに貴島のありかを知つていたとしても、僕はあんたに言わないよ。………それはわかつてくれますね、國友さん? 然し僕があんたに言いたい事はそんな事じやあないんだ。そんな事よりも、ぜんたいあんた方は貴島なぞを追いかけてどうしようというの? いや貴島をかばう意味で僕は言つているのじやない。一人や二人の貴島なぞどうでもいいのだ。さつきあんたが言つたね、亡びてしまつた日本の、法も道もない世界で、何故今更そんな事をしようとするんだろう?」
「………おつしやる通りです。私達のしている事は實につまらんし、こんな風になつた國をこの上だめにしてしまうような事です。知つています。知つていてもどうにも足が拔けないんですよ。三好さん、それが世の中だ、惡いと知つていても長年身にしみついた事からはなかなか拔けられない。そうなんだ。いやで仕樣がないが、私など、ざつとこんな事で果てるんですねえ」國友の聲に嘘のものではない深い自嘲の調子があつた。「………いやだと思いながらやつていても、多勢の仲間をひかえていれば、これで、筋道だけは立てて行かなきやあならないんですよ。詳しい事をあなたに話してもしかたが無いんで、ざつと言いますが、黒田組と私共の間には半年ばかり前から取引きがありましてね、いや取引きと言つてもどうせ私等の世界の事で、どうといつてはつきりした契約のある事じやない。然し案外にこれで私達同志の取引きは堅いもんです。それが、黒田の方でしばらく前に不意打に私達にスカを食わした。かなり大量の「クロ」を黒田の方から私の方へ引取つたんだが――まあ、或る藥品だと思つて下さい――そいつを私共でいくつかに分けてほかへ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]した。あとになつてそいつが贋物だつたという事が、分けてやつた先からわかつて來たんです。全部が全部贋物じやあ無かつたらしいが、かなり澤山の贋物が入つていたんですねえ。そしてこの事をこちらで言い立てる事が出來ないような手を黒田の方が前もつてちやんと打つてあつたという事なんですよ。ここいらの事はあなたに話しても仕方がないから話しませんが、私どもの間には義理だの仁義だのと――まあそ
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