(二人がその方を見ると、不意に顔色を変へた香代が、今迄ハシヤいでゐたのを突然に止めて、顔をそむけたまゝ土間の真中に突立つて石の様になつてゐる。……間)
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香代 ……。ふつ! 畜生。……志水さん、あんた達あ、腑抜けかね? ……死んだ島田さんの事やなんか、会社へかけ合ふと言つてゐたのは、どうなつたんだよ? (と、何のキツカケも無く、出しぬけに真青な顔になつて、全く別の事を言ひ出す。酔ひがこじれて、蒼白く気味の悪いやうなからみ方である)え?
志水 なんだ、急に?
香代 へん、お前達はそれでも男か? それでも人間か? 島田さんとこの婆さんはな、もう食へないし、会社からの金は払下げて貰へないし、ニツチもサツチも行かなくなつて、泣くにも泣けないで真青になつてゐるんだぞ!
志水 ……急に又、そんな――。
香代 言ふぞ! 言ふとも! それが、さうしてベンベンとして他人が良い様にして呉れるのを待つてゐるばかりが、死んだ友達、死んだ仲間のために為てやる事なのか? へん! それでゐて、詰らない、馬鹿々々しい話になりや、人の事にまで頭を突込んでなんだかだと、ぬかすんだ!
志水 香代
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