立つて困つてゐるやうだよ。蔦屋の店を開く金は大方近藤さんが出してくれたつてえからねえ。
香代 それとこれとは話が別ぢや無いか。私はお神さんから前借して来てゐる人間だよ。お神さんと近藤がどんな関係になつてゐるんだか、私の知つた事かね!
より そりやさうさ。全体、あんたを金で縛つて妾にしようなぞと、いくら近藤さんが会社の課長さんかなんか知らないけど、きたないよ。だけどもあの人を怒らしちまふと、蔦屋はおろか、此の土地に私達居れなくなつてしまふんだよ。
香代 ほかの土地へ行くさ!
より だつて、さうなりや、あんただつて坊やの所からもつとズツと離れてしまふ事になるんだよ。
香代 ……ぢや、ひと思ひに、死んじまふか。
より え! ……(ギヨツとして見詰める)……あんた、まさか……?
香代 ハハハ。死ぬ死ぬと言ふ奴に死んだためしが無いとさ。アハハ。
より あゝびつくりした、あんた大変な眼付きをするんだもの。
香代 ちよつと、おどかしてやつたのさ。よりちやんがあんまり臆病だから。
より 早く帰らうよ。もう日が暮れる。さうで無くつても、此処の切通しではこれまで何人飛込みがあつたか知れないんだからねえ。(
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