崖のふちまで行つて怖々下を覗きながら)キツト此辺から列車目がけて飛ぶんだよ。気味の悪い!
香代 よりちやん、あんたの後ろに誰か立つてゐるよ。
より え? なに?
香代 そら、そこだ。
より ヒーツ! (真青になつて下手へ駆け出してゐる)やだツ!
香代 アハハハ。直ぐ私も戻るからね。
より (立上つて)意地わる! いいよ、私は先に帰るから。あゝ胸がドキドキする。(行きかけて又振返つて)……本当に香代ちやん、変な気を起しちや駄目だよ。
香代 なによ言つてるのさ、馬鹿だねえ。
より 少しあんたも男に惚れて見たりするといいんだがなあ。いくら、もう、男にはコリゴリだと言つてもさ、女はやつぱり女だもの。世間の男が、大概餓鬼道ばかりだとしても、みんながみんな三ちやんのお父さんみたいな者ばかりでは無いわよ。あんた、あんまり情がきついから世間も狭くするのよ、僕が忠告しとく。
香代 おつしやいましたね、あんたこそ少し男に惚れ過ぎやしない? あんまり情が深いから身が持てないつてね、一目惚れのより子さん。
より はゞかりさま。ビー、だ! (小走りに消えて行きながら)直ぐ来てよ。
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(夕闇
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