てあるんだもの、先方でも大事に育ててゐるさ。赤ん坊は良い匂ひがするもんねえ。私あ国でいつか姉さんの子を抱かされた時にね、あのムーンとする匂ひがたまらなく良くなつちやつて――。(フイと見ると、香代が胸を両手で抱いて身をもむやうにしてゐる)――あら、どうしたの?
香代 ……(唸る様な泣声)
より なんだい、急にまた、お香代ちやん……泣いちや駄目だよ。
香代 いいよ! (相手の手を邪慳に振り払ふ)どうなるもんか。
より だけど、その亡くなつた三ちやんのお父つあんの家ぢや、あんたを、どうして構ひつけてくれないのかね。町の紙屋で立派にやつてゐるつてえぢやないか?
香代 ……あんな不人情な奴等の世話になる位なら、三吉は私が殺してやるよ。その方が慈悲だ。あの人の病気がひどくなつた時も、知らしてくれやしない。……それでいいかも知れないさ、私あ、こんな炭坑町の飲屋の女だ。
より だけどさ、そいでも――。
香代 うるさいねえ! あんた帰つて頂戴よ。
より そりや帰るけどさ、私あ、あんたを呼びにやられたんだから――。
香代 又会社の近藤が来てんだろ? 話は聞かないでも解つてる。
より んでも、お神さんも間に
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