は知らんよ。アツハハハ。
留吉 まさか、貴様達は早く死んじまへと言ふんぢやあるめえ!
津村 なんともわからん。ハハ、西洋にそんな哲学が有る。中世紀と言つて、人民は、何一つ言へなかつた時分の事だがね。その哲学では、一日でも一刻でも早く死んでしまふ事が人間の最大の幸福だと言ふんださうだ。気持あ解るやうな気がするがなあ。(墓石をピシヤピシヤ叩いて)かうして石になつてしまへば、苦も楽も無いからなあ。ハハハ。
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(留吉は、津村の駄弁をウワの空で聞きながら、唇を噛みしめて掘割の流れを見詰めてゐる)
(伝七がアタフタと出て来る)
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伝七 ……やあ、あゝんだ、どけえ行つたかと思つたら、墓詣りに来てゐたのか。えらく捜したよう……(白い眼で津村を見やり)なあ留さ、どうだらうなあ、頼んだ事よ? 三百円出来なかつたら二百円でもいい、抵当は矢張り上の段の桑畑だ。かうなつたら先の事なんぞ考へては居れねえ。どうにも、はあ、打つちやつとくと此の月末にや差押へが来るだから――。
留吉 ……俺に頼んでも仕方無えよ。
伝七 そんな事言はなくともいいで無えかい。君んとこの死んだ親
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