なんだ?
津村 あゝ君は戻つて来てから此処は初めてなんだな? これさ、例の轟君と利助やなんかがやつてゐる工場は。
留吉 いくら何でも、こいつは酷い。
津村 さうだよ。とにかく村の墓地なんだからつて、村中でいくらか反対も有つたけどね、そんな事より、此の工場の為めに村の人間が何十人か恩沢を蒙つてゐるんだからてんで――。
留吉 その工場も旨く行かねえつて言ふぢやありませんか。
津村 なあに、利助なんぞが村の人を使つて小態《こてい》にやつて居た頃は、これでやつて行けたのさ。もともと山あ近いし、地理の関係から言つても、割と有利な仕事だからねえ。それが轟君の手に渡り、それが又今度倉川の手に渡るとか渡らぬとか言ふ事になつて来ると、そいだけ金がかゝれば結果として又そいだけの利益をあげなければならん道理で、やつぱりヤマカン事業になつて来るんだなあ。しかし、いづれ、轟や利助がいくら頑張つたつて、倉川の物になつてしまふんだらうねえ。大きな金が、近辺の小さな金を全部呑み込んでしまふんだな。すべて似たやうなもんだ、農業だつて同じだよ。
留吉 すると、貧乏人や小百姓はどうしてやつて行けるんだ。
津村 そんな事、私
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