離せ! あんな奴等あ、一ぺん思ひ知らせて置かねえと癖にならあ!
雪 まあさ! あのね、酒もチヤント買つて有るから、落着いて、それでも飲んで、いつとき寝るだよ!
利助 酒? (ヂロリと留吉を見て)へん! なんだ、人の買つてくれた酒なんか飲むか! 鮎川利助を見そこなうなツ! (と、お雪を殴る)
留吉 (立つて行つて、止める)利助さん、まあ――。
利助 (肱で留吉の手をはねのけて)俺の女房を俺が叱るんだ! 他人の世話になるかい。此の野郎! (お雪を殴る)
雪 あつツ、ツ! お前さん! ツ!
利助 へつ、利いた風な事を言やあがつて、こん畜生! こら! (とお雪をピシヤピシヤ殴る。こみ上げて来る怒りを、辛うじて抑へてゐる留吉)
[#5字下げ]4 墓地[#「4 墓地」は中見出し]
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(二三日後の晴れた午後。花が咲き、草萠え、小鳥の囀つてゐる村の旧い墓地の丘。丘は、上手に向つて傾斜し平地になりかけた所で、急にけづり取られてゐて小さな崖を形造つてゐる。その底を、上手袖から廻り込んで掘られた幅一間半の水路。製板所の動力を取るために新らしく作られた掘割である。上手奥に製板所の
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