誰も彼もがやつて行けなくなつて来ると、他人の事考へて仁義な事やつては居れねえからな。斉藤さんに限らねえ。
津村 伝七さん、なんで私の顔ばかり見るかね?
伝七 ハハ、いや、ねえ先生、いつか役人や技師が来て農村でも工業を大いにやらなきやならんと学校で何度も演説してさ、学校の先生達も馬鹿に力コブを入れてゐなさつたが、あんな事も嘘の皮だね。ヘツヘヘヘ、そんな事で一々踊らされて、無けなしの金で罐詰めの道具買つたり、製板の株買つたり、ハムを作るのに資本をかけたりして益々借金ふやす百姓こそ、いい面の皮だ。ハハハハ。学校あたりでも、修身など教へねえで、コスツからく立ちまはつて、人のカスリを取る法でも教へて呉れた方が助かるですがねえ?
津村 あにを言ふんだ、君あ!
伝七 あんだ? (二人、睨み合つて立つ――間。留吉は二人の口論に少しゲツソリして、黙つてしまひ、茶づけ飯の最後の一碗をかき込んでゐる)
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(利助が、酔つて戻つて来る。倉川との交渉はうまく行かなかつたらしい)
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利助 ……畜生! 倉川が何だ。轟がなんだ。人を馬鹿にしやあがつて――。おゝ、津村先生に伝
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