倉川のオヤヂと何かたくらんだね?
轟 なんだつて? たくらんだ? 私が?
利助 でなきや急に彼奴がそんな事を言ふ筈が無え! あんた、蔭にまわつて彼奴を焚き付けたのとは違ふかね?
轟 何を! 俺が、そ、そ、そんな! 失敬な事を言ふなつ! 言ふ事に事を欠いて、――よし、ぢや直ぐ倉川の宿屋へ行つて、ぢかにぶつかつて見ようぢやないか?
利助 ……よし、ぢや行つて見よう! (先に立つてドシドシ表へ出て行く)
轟 (利助の後について一旦表に出てから、小走りに引返して来て)留さん! 先刻の話、ホントに一度真面目に考へて見といてくれないかね?
留吉 ……いやあ、私なぞ――。
轟 とにかく近い内にユツクリ話すから――(表へ消える)
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(短い問)
(二人の去つたのとは別の方角から酒徳利を下げて戻つて来るお雪)
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雪 ……ただ今。
留吉 あゝ。
雪 ……鮎川は?
留吉 今、轟さんが来てな、一緒に倉川とか言ふ人に会ふんだと出て行つたばかりだ。
雪 ……。兄さん、お腹減つたべ? 直ぐに膳の仕度すつから、待つててよ。(土間の隅で仕度する)
留吉 うむ。……製板所のゴタ
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