来ると言ふぢやないか。糞、今更そんなベラボーな! 倉川ぢやチヤンと此の間今月の末まで待つと約束したぢや無えか! 男と男が言葉を番《つが》へたんだぜ!
轟 そんな事を俺に言つたつて始まらねえ! なんしろ俺だつて首が廻らないで苦しいんだ。こんな事なら、あれだけの田地売り飛ばして、製板所なんかやらなきやよかつたと後悔してゐるんだよ。農村の自力更生策だなんて、生意気な甘つちよろい考へなんぞ起したのは、一生の不覚だつたよ。(留吉を見て、無理に笑ふ)ハハハ、ハハ、やあ留吉さん、だつたね? 戻つて来たつて噂聞いたが、君も随分変つたなあ!
留吉 へえ。どうも暫く、その後――。
轟 どうもね、以前はこれで地主様で威張つてゐたが、製板工業なぞに手を出して、田地も何も皆すつちまつてね。ハハハ、みじめなもんさ。君あ旅で大分溜め込んで来たんだとか誰か言つてゐたが、どうかね、少し出資でもして援助してくれんのかね?
留吉 冗談言つてはいけませんよ。
轟 冗談ぢや無い! 投資してくれりや一年の間にや五倍にして返すがな。え? どうだ、留さん!
利助 ……(先刻から土間に突立つてしきりと考へ込んでゐたが)轟さん、あんた、
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