だつてお互ひに十八九の時分は、あんなに喜こんでタンボ仕事をしてゐたぢや無いか。俺達あ、やつぱり百姓の子だよ。
利助 あの頃と今は違ふ。あの頃は農業一方で食へたのが、今あ食へなくなつて来てゐる。田地の五町も十町も持つてそいつを小作に出してやつてゐる家はとにかく、現に、三段や、五段の田地持ちで、タンボ専門で食つてゐる家なんぞ、此の村にや一軒も無くなつてゐるからな。有れば、そいつは借金で持つてゐる家だ。
留吉 だつて、金は残せないにしても、自分で食ふものを自分で作つて行く分にや、これ程強い稼業は無い筈だよ。さうだらう?
利助 あんたあ、なんか、夢を見てるんだ。
留吉 夢? ……(ムカツと来るが、わざと笑ひにまぎらす)ハハハ、いや、夢と言やあ、五年の間、俺が夢を見りや、たつた一つしきや無かつた。親父の残してくれた例の、今、斉藤へ行つてゐる二段田さ、あれ一面に菜種の花の花ざかりの景色さ。そいつを春先きの陽がカーツと照して明るい事と言つたら――菜種の匂ひまで嗅いだ様な気がしたもんだ。ハハハ、夢まで百姓らしい夢を見る。ハハ!
利助 ……だが、俺あ、まつぴらだな。
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