出てバタバタやつて見た。今から考へて見ると、あんなに荒い町で三百そこいらの金を持つて何が仕出来せるものか、二月たゝない間に一文無しにすつてしまつてね、……一時は死んじまはうと思つて、鉄道線路を枕にして寝た事も何度かあつた。……しかし国の事を考へると、どうしても死ねないんだ。それからは、もう無我夢中さ。中国から四国、九州と渡り歩いて、彼方に三月、此方に半年と、少しでも余計に金になる事なら、人の嫌がる仕事ばかりやつて来た。汚ない事もしたよ。まるで、まあ餓鬼だ。……他人にも随分憎まれた。……然し、うぬが身体一つが元手の人間、少しまとまつた金を拵へようとすれば、さうするより他に法は無え。世間と言ふものは、さうした物なんだ。……然しまあ、かうして戻つて来れば、これからは万事うまく行くよ。来る早々津村先生に頼んで田地の買戻しは直ぐに片附くことになつてゐるから、さうなれば、俺と君達夫婦と三人でタンボをやつて行きあ、まあなんとか――。
利助 しかし、俺あ百姓は嫌ひだから……。
留吉 ……。そう言つたもんぢや無ないよ。人間の食べるもんを作るんだからなあ。第一、青天井の下で働くなあ気持がいいよ。君だつて俺
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