イザコザが大きくなつて来ると――。
辰造 なんだつて? ダシにしてだと?
婆 早い話が、明日の百円よりや今日の一円だもの。下げて貰ふ金が此の先伸びれば、私等あ、どうして食つて行けるんですよ? かうして子供と婆あで、稼ぐと言つたつて何をやるんだね? 会社では、あゝして、二百円なら今日にも渡して下さらうと言つてゐるんだから、これ以上事を荒立てないで、早く二百円貰つて――。
金助 おい、おつ母あ、俺達あ何も事を荒立てようとはしてゐやしないんだよ。第一、たつた一人の稼ぎ人が会社の仕事で殺されたと言ふのに、その伜の命が二百円でいいのかい?
婆 冗談言つちやいけないよ! 伜の命が二百円でいいと誰が言つたい? 千円積んでも万円積んでも私あいやだよ。何を言つてやがるんだ。しかし、背に腹は代へられやしないやね。だからさ! 今、あの栄町の角の駄菓子屋の店が百五十円でソツクリ売りに出てゐるんだよ。早く買はねえと他所へ売れてしまふ。此の子を育てるのに私あ駄菓子屋でもしてと思つて、……だからさ! ねえ、志水さん!
辰造 千円取れゝば、駄菓子屋でも何でもやれるよ。
婆 取れりやいいさ、取れりやいいけど、下手をする
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