と元も子も無くしてしまふ。十年ばかり前の争議の時だつて、似たやうな事が有つたんだよ。
志水 そんな事あ無えよ! 絶対、そんな事は無え!
婆 だつてさ――。
志水 おい、おつ母あ、俺の言ふ事が信用出来ねえのか? 俺が今迄お前にチヨツピリだつて嘘を吐いた事があるか?
婆 そりやね、お前さんの言ふ事あ信用するよ。お前さんは正直な人だ。しかし、大勢になりや、お前みたいな人ばかりは居ないよ。
志水 とにかく、俺にまかせて、公会堂へは行つてくれ。まちがつたら、俺が腹を切つて見せる。それでいいだろ?
婆 そりやね、そりや、まあ、行きますよ。しかし、ホントに早くしてお呉れよ。駄菓子屋の事はどうでもいいとして、恥を話さなきや解らない、私んとこぢやもう、米が無いんだよう!
志水 米が無い?
婆 私あ、こんな年寄でいくらも食べやしないけど、此の食ひ盛りの子が、二日も三日も水の様なお粥《かゆ》腹でシヨビタレてゐるのを、私が黙つて見てゐられると思ふのかい? (声を上げて泣く。金助も貰ひ泣きをしてゐる。しかし少年は歯を喰ひしばつてゐて泣かない)
辰造 さうか! ……それ程困つてるなら、なぜ一言俺でも誰でも仲間の者
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