に今度は留吉の方でもかゝつて来るだらうと、飛び下つて応戦の身構へをする)(短い間。――留吉は痛さうに土間に坐る)
留吉 ……(やつと顔を持ち上げて)……金さへ返して呉れりや、いいんだ。(皆、呆れるよりも、その執念深さにむしろギヨツとしてゐる)
辰造 ……よし! ぢや払つてやるから、取れ! (懐中からガマ口を出して)こいつあ、島田んとこのおふくろにやるんで、今日勘定場で帽子を廻して集めた金だが、いいや、三円だな? 丁度それ位、あらあ、受取れ! (バラ銭を土間に投げる)
金助 しかし、辰兄い、そいぢや俺が困る、島田のおふくろにも、皆にも済まねえ。
辰造 なに、又集めりやいい。事情を話せば皆出してくれらあ。そして此の分はお前が月末になつて払へばいいんだ。(土間を這ひ廻るやうにして銭を集めてゐる留吉)チエツ! 人間の皮をかぶつたケダモノと言ふなあ、うぬの事だ! へん、ざまあ見ろ!
香代 ……畜生! (と口の中で言つて、プイと奥への入口から消える)
留吉 (拾ひ集めたものを勘定し終つて)三円二十銭だ。二十銭だけ多い、こりや返す。
辰造 なぐられ賃だ。取つて置け!
留吉 余分に貰ふ訳あ無え、返すよ
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