た訳ぢや無いんだ。
金助 そこをもう半月待つてくれと言つてゐるんぢや無えか。
留吉 だつて、今日返すつてお前約束したぜ。
志水 どうした? やつとあがりか?
金助 あゝ。監督の野郎、なかなかウンと言はねえんだ、今夜あ又一倍浸水がひどくてなあ。それに此奴あ、俺の傍に附きつきりでまるで念仏みてえに金の催促だ。大概腐らあ。いくら残業手当が欲しいからつて、留の奴の組で稼ぐなあ、もう御免だい!
香代 それ脱いだらどう? 乾かしてあげる。
金助 ありがたう。おう気味が悪いや。より公、直ぐに一本附けてくれ。ブルル、思ひつ切り熱くして呉れよ。
留吉 金助、返してくれよ。
辰造 (留吉を無視して金助に)早く腹を拵へて出かけよう。そろそろ寄り合ひが始まるぜ。
金助 うん。今夜こそあ、俺あ黙つちや居ねえぞ! 俺達の言ふ事に反対する奴が有つたら撲り飛ばしてやら!
留吉 金助、金を返してくれ。
より 留さん、あんたも、そのパツチ脱いだらどう、冷たいだろ? (と香代の顔を見る。香代は初めから留吉の方ばかり見てゐるが、彼女の性質では留吉に気持が有れば有るだけ寄つても行けないし、言葉もかけられず、奥歯を喰ひしばつて、
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