結構! 誰がそんな事相談するものかい!(磯の声色で)香代ちやん、お前、もう二つにもなつた子供まで有るつて事忘れちや駄目だよ。七百円からの借金が有るつて事忘れちや駄目だよ。へん、どうせ持ちくづした身体だ。誰が糞、おかあしくつて、私あなたに惚れましたなんて言へるか!
より 香代ちやん、酔つたね。
香代 悪いの? フフ。……しかし、とどのどん詰りは、結局私あ近藤の妾にならなきやならんかも知れんねえ。かう八方ふさがりになつてしまつちや、もうおしまひだ。
より (例の人の良さで、思はず香代の肩を抱いて)しつかりおしよ、ねえ香代ちやん!
香代 (より子の肩に頤を乗せて)だけどねえ、どうしても私、諦らめ切れないんだよ! どう言ふんだろ? あんな、人間の義理も人情もどつかへ置き忘れて来てしまつた男、動物の様に金さへ溜まればいいつて奴、畜生つと思ふけど、駄目なのよ! 魔が差した! 自分で自分がどうにもならない!
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(頬に涙が流れてゐる)
(志水と辰造も、香代の変な真剣さに打たれて、今迄の様な軽口も出て来なくなつてゐる)
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辰造 ソロソロ公会堂へ行かうか。

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