(それに返事もしないで、お磯プイと表へ)
辰造 わかつてらあ、近藤の社宅へ行くんだい。(額に指で角を作つて)これだあ!
香代 (ボンヤリ畳の上の紙幣を見てゐたが、仕方無く取つて帯の間に無造作に突込んで)ああ、いやだいやだ。(土間に降りる)よりちやん、私にも一本附けてくんない?
より あいよ。しかし、いいの、あんた、香代ちやん?
香代 いいんだよ。
より いえさ、それよりも近藤さんの事だよ。
香代 へん。金はいくらでも出してやらうと言ふんだよ。お神さんだけで沢山ぢや無いの。あんな綺麗な人を放つといて、私見たいな女の尻を追ひまはすんだからね。(酒をガブ呑みする)タデ食ふ虫と言ふけど、少し物好きが過ぎるよ。
辰造 なら、お前が留公に惚れるのは物好きの骨頂だらう。
香代 なんですつて! 私がいつ留さんに惚れた?
志水 あれ、ぢや惚れちやゐないのか?
香代 惚れてゐるかも知れませんさ。それが、どうしたの? 男に惚れようと惚れまいと、人に相談した上でするんぢやあるまいし!
辰造 でもなんだぜ、当の相手には一寸相談するのが普通だぜ。さうで無い奴を片想ひと言ふ。留公にや相談しないのか?
香代 片想ひ
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