を見送つた眼で香代に気がつく)あ、お香代さん!
香代 ……? (夢を見てゐるやうな眼附)
辰造 香代ちやんぢや無えか? どうしたんだ、こんな所で?
香代 ……どうしたの?
金助 お前こそどうしたんだ?
辰造 さては、逢引と来たな。色男を待つてゐるんだらう?
香代 (やつと我れに返り、周囲を見廻す。それから二人を見てニツコリし、初めて元気な眼の色)まだ仕事なの?
辰造 御覧の通りでございますよ、へん。それをだ、そんな所で色男を待ちの、よろしくやらうと言ふのは、俺達に当てつけて見せようと言ふんだな。少し殺生だらうぜ!
金助 ホントカ、おい?
香代 さう、まあその辺だわね。
辰造 なぐるぜ、畜生!(三人笑ふ)おゝ、香代ちやん、お前マツチ無えか?
香代 マツチ? さうね……(袂を捜して)はい、投げるよ。
辰造 ありがてえ! おつとしよ(マツチを受けて)香代ちやん様々だ、やつとありつけらあ。(二人はかぶり附くやうにして一本の火で煙草を吸ひつける)
香代 まだ浸水はひどいのね?
金助 段々ひどくなる一方だ。おかげで、臍から下あ、いつも水びたしだ、肝心な物がふやけやがつてなあ。アハハ。(三人笑ふ)
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